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東京高等裁判所 昭和49年(ネ)482号 判決

控訴人兼附帯被控訴人(以下「控訴人」という。) 岡島権三

右訴訟代理人弁護士 中村紘

被控訴人兼附帯控訴人(以下「被控訴人」という。) 安東幸正

被控訴人兼附帯控訴人(以下「被控訴人」という。) 安東忠幸

被控訴人兼附帯控訴人(以下「被控訴人」という。) 安東幸雄

右三名訴訟代理人弁護士 太田真佐夫

主文

原判決中被控訴人らの控訴人に対し昭和四七年一月一五日から原判決添付目録記載の土地(以下「本件土地」という。)明渡済みまで一か年金四万一、八五〇円の割合による金員の支払いを求める請求を棄却した部分を取り消す。

控訴人は被控訴人らに対し昭和四七年一月一五日から昭和四七年一二月三一日までは一か年金五万一、八五〇円、昭和四八年一月一日から本件土地明渡済みまでは一か年一〇万〇、七五〇円の割合による金員の支払いをせよ。

本件控訴並びにその余の附帯控訴及び被控訴人らの当審における拡張請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

この判決の被控訴人勝訴部分及び原判決主文第一項は仮りに執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、控訴人

(1)控訴につき

原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

被控訴人らの請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

との判決。

(2)附帯控訴につき

附帯控訴棄却の判決

二、被控訴人ら

(1)控訴につき

控訴棄却の判決

(2)附帯控訴につき

原判決中被控訴人ら敗訴部分を取り消す。

控訴人は被控訴人らに対し金一五万五、五五〇円及び昭和四八年一月一日から原判決添付目録記載の土地明渡済みまで一か年金一〇万〇、七五〇円の割合による金員の支払をせよ(当審における拡張請求を含む。)。との判決並びに原判決主文第一項及び附帯控訴の趣旨第二項につき仮執行の宣言。

第二、事実上の陳述

当事者双方の事実上の陳述は、被控訴人らにおいて、「原判決書二枚目表四行目及び五行目を「本件土地の賃料相当額は、昭和四五年一月一日から昭和四七年一二月三一日までは一か年金五万一、八五〇円でこれが三年間の合計額は金一五万五、五五〇円であり、昭和四八年一月一日からは一か年金一〇万〇、七五〇円である。」に改め、右金一五万五、五五〇円及び昭和四八年一月一日から本件土地明渡済みまで一か年金一〇万〇、七五〇円の割合による賃料相当の損害金を附帯控訴及び当審における拡張請求により控訴人に支払いを求める。なお、控訴人において本件土地に野菜等を栽培したとしても、これにより本件土地が農地となるものではなく、単なる家庭菜園にしかすぎない。」と述べたほか、原判決事実摘示(原判決書一枚目裏末行から同四枚目表四行目まで。ただし、同二枚目表六行目中「過去三年間及び」を「昭和四五年一月一日から」に、同裏一一行目中「原告」を「被告」に改める。)のとおりであるから、ここにこれを引用する。

第三、証拠関係〈省略〉

理由

一、本件土地が被控訴人らの共有に属するものであること、控訴人が本件土地を占有していることは当事者間に争いがない。

二、そこで、控訴人の本件土地の占有権原につき判断する。

(1)〈証拠〉をあわせ考えると、次の事実が認められる。

(イ)被控訴人らの祖母安東すみは昭和六年ごろ飯田市内でレストラン東精軒を経営する控訴人の父岡島金蔵から野菜栽培用にその所有地の賃借方の申入れを受けその所有地の一部約三〇坪を賃貸することとし、その際同地上に生立していた古桑樹を伐採伐根してこれを自家消費のため保留してこれを期間を定めないで賃貸して引き渡した。金蔵はレストラン東精軒支店で使用するパセリ、レタス等の栽培及び同支店の装飾用樹木の休め地として同土地を使用し、昭和一二年ごろには控訴人が右支店の経営を引き継ぎ、控訴人において同土地を右同様使用するにいたったが前記すみその他被控訴人らからとくに異議の申出でがなかった。その後右土地は昭和二二年四月発生の飯田市大火に基づく復興土地区画整理により原判決添付目録記載のとおりの本件土地となった。

(ロ)安東すみは昭和一六年一二月一日死亡し、被控訴人らの父幸二郎が家督相続し、さらに同人が昭和二六年八月一七日死亡して被控訴人らが母喜美とともに共同相続したところ、母喜美も昭和四七年三月二五日死亡し、被控訴人らが本件土地を共有することとなったが、この間岡島金蔵は昭和二四年一月二日死亡したので、被控訴人らは再三控訴人に本件土地の返還を申し出でたが、控訴人において本件土地が農地であり、今後も使用したいとの理由でこれを拒否した。

(ハ)その後控訴人は本件土地につき前記野菜等の栽培をやめ、これが土地を野菜栽培の目的に使用することなく放置するようになり、昭和四一年ごろには荒地同様の状況となっていた。

(ニ)安東喜美は、控訴人において本件土地が農地であること等を理由にその返還を拒んでいたので、昭和四四年二月、長野県知事に対し農地法二〇条一項による賃貸借の解約の許可を申請したところ、昭和四五年一二月九日付で本件土地が農地でないとの理由で右申請を却下されたので、昭和四六年一月一四日控訴人に対し右賃貸借解約の意思表示をなし、同意思表示はそのころ控訴人に到達した。

以上の事実が認められ、前掲証人及び本人の各供述中右の認定に反する部分は措信できない。前掲乙第三号証、第四号証の五、六には控訴人が本件土地の賃料を右解約の意思表示の後に農業協同組合に納入した記載があるけれども、これが支払った金員につき被控訴人らにおいて解約の事実を知りながら受け取ったことを認めるに足る証拠もないので、右乙号各証をもって前記認定を覆えすに足りない。

(2)右の事実によると、本件土地については、被控訴人らの祖母安東すみと控訴人の父岡島金蔵との間に賃貸借契約が成立し、その後本件土地の所有者は被控訴人らに、その賃借人は控訴人となったものであるが、本件土地は被控訴人らの母安東喜美において解約の意思表示をなした当時すでに農地ではなかったものであるから、本件土地賃貸借契約は民法六一七条一項により解約の申入れをした後一年を経過した昭和四七年一月一四日限り終了したものというべきである。したがって、被控訴人らの本訴請求中本位的請求原因は理由がなく、予備的請求原因は理由があるから、これに基づき控訴人は被控訴人らに対し本件土地を明け渡し、昭和四七年一月一五日から右明渡済みまで賃料相当の損害金を支払う義務がある。

三、そこで、本件土地の賃料相当の損害金について判断するに、成立に争いのない甲第二七号証によると、昭和四七年度の固定資産評価額に基づく本件土地の評価相当額は、金一〇三万七、〇九四円(円未満切捨て。)であり、固定資産評価額が時価より低廉であることは公知の事実であり、またこれを覆すに足るような事情のない本件においては賃料相当額を算出するにあたり右の固定資産評価額を基準とし、土地の利廻りは通常年五分とするのを相当と認めるので、右により算出した昭和四七年一月当時の本件土地の賃料相当額は年額金五万一、八五四円とするのが相当である。また、昭和四八年一月一日現在の本件土地の賃料相当額は甲第二八号証によると本件土地に対応する固定資産評価額は金二〇一万六、八三五円であり、これを前記利廻りにより賃料相当額を算出すると金一〇万〇八四一円となる。当審における被控訴人安東幸雄本人尋問の結果中右に反する部分は採用しない。右によると、被控訴人らの控訴人に対し昭和四七年一月一五日から昭和四七年一二月三一日までは年額金五万一、八五〇円、昭和四八年一月一日から本件土地明渡済みまで年額金一〇万〇、七五〇円の割合による賃料相当額の損害金の支払いを求める部分は理由があるけれども、その余は失当として棄却を免れない。

四、右によると、原判決中被控訴人らの控訴人に対し昭和四七年一月一五日から本件土地明渡済みまで一か年金四万一、八五〇円の割合による金員の支払いを求める部分の請求を棄却した部分は不当として取消しを免れず、本件附帯控訴中右の範囲で取り消しこれが金員の支払いを求める部分及び当審における拡張請求中昭和四七年一月一五日から本件土地明渡済みまでの金員の支払いを求める部分は理由があるけれども、本件控訴並びにその余の附帯控訴及び当審における拡張請求は理由がない。

よって、原判決中被控訴人の右の範囲の敗訴部分を取り消し、被控訴人らの附帯控訴及び拡張請求を前記の範囲で認容し、本件控訴並びにその余の附帯控訴及び当審における拡張請求を棄却し、訴訟費用は第一、二審とも控訴人の勝訴部分が僅少なので全部敗訴者に準じてこれを負担させ、申立てによりこの判決中被控訴人勝訴部分及び原判決主文第一項につき仮執行の宣言を付するのを相当と認めて、主文のように判決する。

(裁判長裁判官 豊水道祐 裁判官 館忠彦 安井章)

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